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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)372号 判決 2000年1月20日

原告

三菱電機株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

【C】

【D】

【E】

被告

特許庁長官【F】

指定代理人

【G】

【H】

【I】

【J】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

「特許庁が平成8年審判第1614号事件について平成10年9月16日にした審決を取り消す。」との判決。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和63年5月25日「フォトマスクの作成方法」なる発明について特許出願(昭和63年特許願第127309号)をしたが、平成7年12月18日拒絶査定があったので、平成8年2月16日審判を請求し、平成8年審判第1614号事件として審理されたが、平成10年9月16日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年10月28日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報をフォトマスクの実パターンが描かれる有効領域内に各デバイスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域内の実デバイスの本パターンが描かれたエリア外に区画された部分に記録することを特徴とするフォトマスクの作成方法。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨

前項のとおりと認める。

(2)  引用例

(a) これに対して、審判における拒絶の理由で引用した特開昭61-284910号公報(引用例1)に記載されるものは、半導体装置製造用基板及び半導体装置製造方法に関するものであり、同公報1頁左下欄7行~10行に「その実パターン有効領域外または有効チップ領域外に製造上の条件等を表す参考情報がパターニング形成されている」と、また、同12行~14行「前記ガラスマスク上の参考情報にはマスク製造規格に対するマスク検査の結果が含まれている」と、同公報2頁左下欄12行~右下欄18行に「第1図は半導体装置製造用のガラスマスク1を示しており、このガラスマスク1上の中央部には本来的に必要なマスクパターンを形成するための実パターン有効領域2が確保されており、この有効領域2の周囲に位置する余白領域3の一部にマスク名称4のほかに参考情報5がパターニング形成されている。即ち、上記参考情報5は、ガラスマスク1の製造上必要な条件とか規格値であり、さらにはマスク検査後においてはパターン寸法値の規格(設計目標値)からのずれ量αなどである。・・・(中略)・・・上記ガラスマスクによれば、その製造上必要な条件とか規格値とかマスク検査結果などの参考情報が実パターン有効領域外に直接書き込まれているので、従来必要とした別シートを省略でき、各製造工程での参考情報の管理が単純化され、情報管理を正確、確実に行なうことが可能になるので、その生産性の向上、製造歩留りの向上が可能になる。」と、同公報3頁左上欄5行~同右上欄3行に「本発明に係る基板を利用して半導体装置を製造する方法の一実施例として、半導体ウエハ上にガラスマスクのパターンを露光する工程について第4図を参照して説明する。この工程においては、ガラスマスク1に書き込まれているマスク検査結果情報であるパターン寸法規格値からのずれ量αを露光装置でバーコード等認識部により自動的に読み取り、このずれ量αに見合うだけ基準露光量Expを補正して最適値となるように自動的にフィードバック制御を行なうことによって、半導体ウエハ6上に所定のパターン寸法が得られるように自動最適量制御方式によるプロセス制御を行なうことが可能になる。このように、半導体装置製造工程での製造条件等を該当する基板から直接に、確実かつ正確に認識できるので、工程処理の生産性がよくなり、各工程での品質制御がよくなり、結果として高品質の半導体装置を高歩留りで量産することが可能になる。」と、それぞれ記載されている。

これらの記載から、デバイスチップ領域の実デバイスの本パターンが描かれたエリア(「実パターン有効領域2」が相当する。)外に区画された部分(「参考情報5」が相当する。)に、実デバイスの本パターン以外のデバイス製作上必要とされる情報類、すなわちガラスマスク製造上必要な条件、規格値、さらにはマスク検査結果(マスク検査後におけるパターン寸法値の規格からのずれ量α)等を記憶しておき、従来必要とした別シートを省略して、これらの情報を該当する基板から直接に、確実かつ正確に認識することで、工程処理の生産性を高め、品質制御を向上させ、結果として歩留まりを高めることを意図した、フォトマスクの作成方法が把握できる。

(b) 同じく引用した特開昭59-126631号公報(引用例2)に記載されるものは、フォトマスク上のパターンをウエハ上に転写する写真工程に用いるフォトマスク上のパターン配置方法に関するものであり、同公報1頁右下欄2行~2頁左上欄6行及び第1図に「第1図(A)~第1図(C)は従来のパターン配置方法の主要段階を示す平面図である。同図において、(1)は素子デバイスを作動させるために必要な・・・・半導体素子本パターン、(2)は素子の特性を計測するために必要な第1パターン(3a)、マスク製作に必要な第2パターン(3b)および第3パターン(3c)、ウエハプロセスの重ね合わせに必要な第4パターン(3d)からなる半導体素子作成上に必要な半導体素子パターン、(4)はレティクル、(5)はマスタマスクである。・・・・。これをレティクル(4)と称し、本番パターンの10倍に作成する。そして、このレティクル(4)を使用し、・・・・所望のパターンを得るものである。」と記載されている。

この記載から、フォトマスクの実パターンが描かれる有効領域(「レティクル(4)」が相当する。)内で各デバイスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域(「半導体素子作成パターン(2)」が相当する。)の実デバイスの本パターンが描かれたエリア(「半導体素子本パターン(1)」が相当する。)外に区画された部分(「第1パターン(3a),(7a)~第4パターン(3d),(7d)」が相当する。)に、実デバイスの本パターン以外のデバイス製作上必要とされるパターンを記憶しておくフォトマスクのパターン配置方法が把握できる。

(3)  本願発明と引用例との対比

そこで、本願発明と、引用例1記載のものを比較すると、両者は、フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中における品質情報をフォトマスクの実パターンが描かれる有効領域内で実デバイスの本パターンが描かれたエリア外に区分された部分に記録するフォトマスクの作成方法である点で一致するものの、本願発明では、記録される品質情報が「デバイスチップ毎の品質情報」である点、及び当該品質情報を記録する領域が「フォトマスクの実パターンが描かれる有効領域内」であるが「各デバイスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域内の実デバイスの本パターンが描かれたエリア外に区分された部分」に記録する点を限定しているのに対して、引用例1記載のものでは、前記に摘出したように「このガラスマスク1上の中央部には本来的に必要なマスクパターンを形成するための実パターン有効領域2が確保されており、この有効領域2の周囲に位置する余白領域3の一部にマスク名称4のほかに参考情報5がパターニング形成されている。」と記載されることから、各デバイスチップ毎の情報ではなく、また、各デバイスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域内とはいえない点で相違している。

(4)  相違点に関する審決の判断

上記相違点について検討する。

引用例2には、本パターン以外のパターンを各デバイス毎に各々配置することが記載されており、各デバイスチップ毎にパターンを配置することが、従来から慣用されていることが把握できる。

また、このように工程処理で有効に機能する品質情報が各デバイスごとに切り離された後の工程処理でも有用であることは自明なことであり、個別のデバイスパターンの有効チップ領域外に分割して、個別の品質情報をここに分散して存在されることは、当業者であれば容易に想到し得ることといえる。

してみれば、引用例1においては、ガラスマスク全体に含まれるデバイス毎の情報が余白領域に配置されるものであるところを、各デバイス毎に存在する「各デバイスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域内の実デバイスの本パターンが描かれたエリア外に区分された部分」を採用することは、当業者にとり格別困難性を有することとはいえない。

原告は、引用例1における参考情報が『製造上の条件等を表す参考情報』を記録するものであり、これは『フォトマスク製作上におけるマスク基板のパターン寸法値の情報』を意味し、本願発明のように『フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップの品質情報』を書き込むことは、引用例1には示唆がないと主張するが、前記のようにこの主張は採用できない。

また、原告は、引用例1、2では、半導体ウェハに転写する際に各デバイスチップ毎の品質をチェックして各デバイスチップ毎の良否を選別する技術思想が何ら示唆されないと主張するが、既通知の特開昭62-75532号公報に「基板の主パターン有効エリヤ外にレーザーを用いてパターン認識情報を直接書き込む基板の製造方法であって、前記パターン認識情報を半導体製造上の現工程以降の処理制御条件または現工程までの検査結果としたことを特徴とする基板の製造方法」(特許請求の範囲)と記載されるように、各工程において品質情報を書き込むことが従来慣用されている以上、この主張も採用できない。

よって、これら引用例1記載のフォトマスクの作成方法において、引用例2記載のパターン配置を適用して、本願発明のようにすることは当業者が容易になし得た程度のことである。

そして、これにより格別の効果が生じるものともいえない。

(5)  審決のむすび

したがって、本願発明は、第1引用例及び第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3原告主張の審決取消事由

本願発明は、フォトマスク作成時あるいはマスク使用時の情報を各ディバイスチップの有効エリア外に記載させるものであって、各引用例のように、単に、フォトマスク作成時の情報をマスクエリア外に記載されるものではない。しかも、本願発明はかかる構成上の特徴から、各引用例では到底発揮することができない、顕著な効果を発揮するものである。

しかるに、審決はこれを看過し本願発明の進歩性を否定したものであり、取り消されるべきである。審決の判断過程に即してその誤りを整理すると、以下のとおりである。

1  一致点の認定の誤り(取消事由1)

(1)  審決は、本願発明と引用例1に記載のものとを比較して、「フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中における品質情報を……に記録するフォトマスクの作成方法である点で一致する」と認定している。

しかし、引用例1には、本願発明の、作成されたフォトマスクの使用中における品質情報を記録する点に関する記載がないので、この点で一致するとした審決の認定は誤りである。これに関して、審決は、「『フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップの品質情報』を書き込むことは引用例1には示唆がない」との原告の主張を排斥しているが、本願発明の「作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップの品質情報を書き込む」点については、引用例1に全く記載がない。審決は、この誤った認定に基づいて本願発明を容易に発明することができたと誤って判断したものである。

(2)  審決は、「引用例1、2では、半導体ウエハに転写する際に、各デバイスチップ毎の品質をチェックして各デバイスチップ毎の良否を選別する思想が何ら示されていない」との原告の主張も排斥している。

しかしながら、原告のこの主張は、「半導体ウエハに転写する際、すなわち作成されたフォトマスクの使用中に、各デバイスチップ毎の品質をチェックして、各デバイスチップの品質情報をフォトマスクに記録することによって、その品質情報を各デバイスチップ毎の良否を選別する思想が何ら示されていない」という趣旨であった。この主張の根拠は甲第2号証として本願明細書の「欠陥数はフォトマスクを使用し洗浄していく毎に増加していく。この欠陥数を更にこのフォトマスクに記録していくことにより」との記載(5頁17行ないし19行)に基づいている。

引用例1、2には本願発明の「作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報を」フォトマスクに記録する、という点に相応する記載はないし、かかる点を想起させるような記載もない。

2  格別の効果の看過(取消事由2)

審決は、本願発明は「これにより、格別の効果が生じるものともいえない」と断じている。

しかしながら、本願発明の「作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップの品質情報を書き込む」に基づく格別の効果は、本願明細書の5頁17行から6頁第1行に記述がある。すなわち、本願明細書は、フォトマスク使用中における問題点を「欠陥数はフォトマスクを使用して洗浄していく毎に増加していく」と指摘し、本願発明の特有の作用を、「この欠陥数を更にこのフォトマスクに記録していく」(すなわち、作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報をフォトマスクに記録していく)と説明した上で、この特有の効果を「フォトマスクの寿命が一目にて判別でき、フォトマスクの管理が容易となる」と明瞭に記述している。

3  本願発明の要旨の誤認(取消事由3)

審決は、本願発明の「フォトマスク作成中」と、品質情報が記録される場所(部分)に関する構成とにのみ着目し、「作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報」が(フォトマスクに)記録される、という構成要素については全く認識していない。

審決は、本願発明の「作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップの品質情報を書き込む」点を看過しているが故に、この構成に相応する構成が引用例1、2に認められないにもかかわらず、本願発明が引用例1及び引用例2から「容易になし得た」と誤認し、この構成によってのみ発揮される特有の作用や効果が、本願明細書に明瞭に記載されているにもかかわらず、「格別の効果が生じるものはいえない」と誤認したものである。

第4審決取消事由に対する被告の反論

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

本願発明は「フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報……を記録する」ことを構成要件とし、「フォトマスクの作成中における品質情報」あるいは「作成されたフォトマスクの使用中における品質情報」のいずれかを選択するものである。

審決がした一致点の認定は、引用例1に「フォトマスクの作成中における品質情報をフォトマスクの実パターンが描かれる有効領域内で実デバイスの本パターンが描かれたエリア外に区画された部分に記録するフォトマスクの作成方法」が記載されていることから、上記の本願発明のように「フォトマスクの作成中における品質情報」あるいは「作成されたフォトマスクの使用中における品質情報」のいずれかを選択するものであるから、引用例1には、「フォトマスクの作成中における品質情報」に関する記載があるとしたものである。

審決はこのような趣旨で引用例1の認定をしたものであり、引用例1あるいは引用例2に「作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報を」フォトマスクに記録する、という点に相応する記載又はかかる点を想起させるような記載があるとしたものではない。

2  取消事由2(格別な効果の看過)について

本願発明は「フォトマスクの作成中における品質情報」あるいは「作成されたフォトマスクの使用中における品質情報」のいずれかを選択してフォトマスクに記録するものであるから、原告の主張は理由がない。

3  取消事由3(本願発明の要旨の誤認)について

審決には、原告主張のような本願発明の要旨の誤認はない。

第5当裁判所の判断

1  本願発明について

甲第2号証及び第3号証の1、5によれば、本願明細書に本願発明について次のような記載があることが認められる。

[産業上の利用分野]

本願発明は半導体素子の製造工程にて使用されるフォトマスクの作成方法に関するものである。(当初明細書1頁11行ないし12行)

[従来技術]

従来のフォトマスクの作成は、次のようであった。通常の写真製版工程と同じように形成され、ガラス基板上に被着された金属クロム薄膜上にレジストを被着し所望部分のみを電子ビーム露光装置を用いて描画現像しレジストパターンを得る。そのレジストパターンをマスクにしてエッチングすると、所望のディバイスのパターンが形成される。この製造工程において欠陥の発生は不可避であり、各マスク毎にその欠陥の種類が異なり欠陥数もまちまちである。さらに、これらのフォトマスクを使用していくと、洗浄などにより欠陥個数が増加する。(同1頁下から3行ないし2頁10行)

これらの欠陥個数の管理は別の台帳などでなされることが多く、どれほどの欠陥がありどれほど増加したか不明確であり、また寸法測定値においても規格値内に入っているフォトマスクを出荷しているが、寸法値がマスク毎にすべて異なり転写の際の露光条件を決定するのが難しいなどの問題点があった。(同2頁12行ないし下から3行)

[本願発明の技術的課題]

本願発明は、以上のような問題点を除去するためになされたもので、フォトマスク作成中あるいは使用中の寸法値や欠陥データなどの品質情報をフォトマスク内に記録したもので、これによりより精度の高いデバイスを作成していくことを目的としたものである。(同2頁下から2行ないし3頁4行)

[作用]

本願発明に係るフォトマスクの作成方法によれば、フォトマスク内の各デバイスチップ毎の品質情報を管理することが可能となり、半導体ウエハに転写する際に各デバイスチップ毎の品質をチェックしまた把握した上で使用できるのでデバイスの形成上有利な点が多く歩留まりの向上となる。(平成8年3月15日付け手続補正書2頁11行ないし18行)

[効果]

本願発明によれば、フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報をフォトマスクの実パターンが描かれる有効領域内に各デバイスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域内の実デバイスの本パターンが描かれたエリア外に区画された部分に記録するようにしたので、フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中において増加する欠陥数や種類等の管理情報を含む各ディバイス毎の品質情報を、フォトマスクの実パターンが描かれる有効領域内に各ディバイスチップ毎に分割された各ディバイス領域内の実ディバイスの本パターンが描かれたエリア外に区画された部分に記録し管理することができ、したがって、半導体ウエハに転写する際には各ディバイス毎の品質をチェックしまた把握した上で使用できることになり、フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報に基づいて各ディバイスチップ毎の良品と不良品の判別ができるとともに、テスト工程で各ディバイスチップ毎に品質情報をパターン認識して良品と不良品を選別するプログラムを組めば良品と不良品とを容易に自動判別することができる。(同2頁下から8行ないし3頁7行)

2  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

(1)  本願発明の特許請求の範囲の記載は、前記本願発明の要旨のとおりであり、また、引用例1の記載から、審決認定のとおり、「デバイスチップ領域の実デバイスの本パターンが描かれたエリア(「実パターン有効領域2」が相当する。)外に区画された部分(「参考情報5」が相当する。)に、実デバイスの本パターン以外のデバイス製作上必要とされる情報類、すなわちガラスマスク製造上必要な条件、規格値、さらにはマスク検査結果(マスク検査後におけるパターン寸法値の規格からのずれ量α)等を記憶しておき、従来必要とした別シートを省略して、これらの情報を該当する基板から直接に、確実かつ正確に認識することで、工程処理の生産性を高め、品質制御を向上させ、結果として歩留まりを高めることを意図した、フォトマスクの作成方法」の発明が把握し得ることは、原告も争わないところである。

本願発明と引用例1から把握し得るものとして審決が認定した発明とを対比すると、両者は、フォトマスクの作成中における品質情報をフォトマスクの実パターンが描かれる有効領域内で実デバイスの本パターンが描かれたエリア外に区分された部分に記録するフォトマスクの作成方法である点で一致するものと認められるが、引用例1には「作成されたフォトマスクの使用中における品質情報」を記録することの記載はないことが明らかである。

(2)  しかしながら、本願発明の特許請求の範囲の記載によれば、本願発明は「フォトマスクの作成中」における品質情報、あるいは「作成されたフォトマスクの使用中における」品質情報のどちらか一方を選択して記録するものと認められるところ、前記のように把握される引用例1記載の発明は「フォトマスクの作成中」における品質情報を記録するものということができ、この点において本願発明と一致するものであることは明らかである。

審決は、「両者は、フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中における品質情報」を記録するものであるとし、引用例1記載の発明も「作成されたフォトマスクの使用中における品質情報」をも選択的に記録するものであるかのように表現しているけれども、引用例1記載の発明が「フォトマスクの作成中における品質情報」をも記録するものであるという点においては本願発明と一致するところであり、審決がその趣旨で認定していることは明らかであるから、審決に一致点の認定の誤りがあるものと認めることはできない。

(3)  原告の準備書面中の主張には、本願発明は、フォトマスクの作成中の品質(欠陥)の変化、あるいはマスクの使用時の品質(欠陥)の変化の情報を記録するものであるから、本願発明の特許請求の範囲でいう「あるいは」は「及び」の意味であるとする部分がある。しかし、本願発明は、「フォトマスクの作成中」における品質情報、あるいは「作成されたフォトマスクの使用中における」品質情報のいずれかを選択して記録するものであることは、その特許請求の範囲の記載自体から明らかであり、原告の主張は採用することができない。

(4)  以上のとおりであり、審決は、本願発明の「フォトマスクの作成中」における品質情報を選択して記録する場合について、引用例1記載の発明に、引用例2記載のパターン配置を適用して、本願発明のようにすることは当業者においては容易になし得た程度のことである旨判断したものと理解すべきであって、そこに、原告主張のように、一致点の認定の誤りに基づく容易性判断の誤りがあるものとは認められない。

3  取消事由2(格別な効果の看過)について

原告は、本願発明は作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報をフォトマスクに記録していくことで「フォトマスクの寿命が一目にて判別でき、フォトマスクの管理が容易となる」という特有の効果を奏するから、これを看過した審決の認定は誤りであると主張する。

しかしながら、「フォトマスクの寿命が一目にて判別でき、フォトマスクの管理が容易となる」という原告主張の効果は、本願発明の構成のうち「作成されたフォトマスクの使用中における品質情報」を選択してフォトマスクに記録するときのみの効果であって、「フォトマスクの作成中における品質情報」を選択してフォトマスクに記録するときの効果であるとは認められない。審決は、後者の場合における本願発明の構成による効果を引用例1記載の発明の効果と対比して、本願発明は格別の効果を生じるものともいえないと認定したものと理解されるのであり、そこに原告主張の格別の効果の看過の誤りがあるということはできない。

したがって、審決取消事由2も理由がない。

4  取消事由3(本願発明の要旨の誤認)について

原告は、審決は本願発明の「作成されたフォトマスクの使用中における」品質情報を記録することについて認識していないから、本願発明の要旨を誤認している旨主張する。

しかし、本願発明は「フォトマスクの作成中における品質情報」あるいは「作成されたフォトマスクの使用中における品質情報」のいずれかを選択してフォトマスクに記録するものであることは前示のとおりであり、審決は、本願発明のうち前者を選択したフォトマスクの発明につき、「引用例1記載のフォトマスクの作成方法において、引用例2記載のパターン配置を適用して、本願発明のようにすることは当業者が容易になし得た程度のことである。」と認定したものと認められ、そこに、原告の主張のような誤りがあるとは認められない。

したがって、取消事由3も理由がない。

第6結論

以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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